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BTSとグラミー、遅すぎた「政略結婚」 「アジアン・ポップ」という善意の箱をめぐる、古い権威と新しい力Zeena Kodaのことは先週も少し書いたが、そもそも私がBTSとグラミーの一件に興味を持ったのは、彼女の反応が私にはあまりにも感情的に映ったからだった。私の頭の中にあったグラミーは、少しお高くとまった、簡単には揺らがない権威である。ところが、BTSが2027年グラミーへの出品を見送ると、新設された「最優秀アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス」部門を推進してきたKodaは、公の場で失望をあらわにした。その後、レコーディング・アカデミーCEOのHarvey Mason Jr.が、BTSの決定を尊重しつつ、新部門の意図を説明した。もちろん、Kodaの内心を私が知ることはできない。それでも、彼女が悔しさをにじませているように見えた瞬間、ふと思った。少なくともこの件に限れば、立場はもう逆転しているのではないか。 BTSとHYBEは、もう「持たざる側」だけではないあえて挑発的に言えば、ほかのアジア系アーティストや、まだ世界市場への入口を探しているK-popアーティストから見れば、BTSとHYBEは「既得権を持つ側」にさえ見える。BTSのメンバーとBang Si-hyukは2019年にレコーディング・アカデミーの会員となり、2025年にもHYBE傘下のアーティストやプロデューサーたちが新会員として招かれた。会員であることは、アカデミーの経営や受賞結果を自由に動かせるという意味ではない。しかし、BTSとHYBEが制度の完全な部外者ではないことも確かだ。 制度を支配しているわけではない。だが、もう制度の外にいるわけでもない。BTSは、門の内側に片足を置きながら、その門そのものを揺らせるほど大きくなった。だから今回の対立を、弱いアジア人アーティストが巨大な西洋組織に挑む、単純な「ダビデ対ゴリアテ」として描くと何かを見落とす。ここで向き合っているのは、賞を与え、歴史に名前を刻む「古い権威」と、国境を越える巨大な聴衆をすでに持つ「新しい力」なのだ。そして、BTSの答えが、すべてのアジア系アーティストの答えとは限らない。「アジアン・ポップ」部門は、BTSにとっては今さら入るには小さすぎる箱かもしれない。けれど、まだ主要部門まで名前が届かないアーティストにとっては、貴重な入口になり得る。BTSには、もう必要のない梯子を拒む力がある。しかし、その梯子を必要とする後続のアーティストもいる。問うべきなのは、特別部門が善か悪かだけではない。 誰にとって入口で、誰にとって天井なのか。そして、その境界を誰が決めるのか。 古い権威と新しい力の「結婚」この関係を考えていて、私は徳川和子(のちの東福門院)が、1620年に後水尾天皇のもとへ入内した出来事を思い出した。江戸幕府は、軍事力と統治力を握った新しい政治権力だった。一方の朝廷には、長い歴史から生まれる正統性と文化的威信があった。幕府は表向き「公武之和」を掲げ、婚姻によって二つの異なる力を結びつけようとした。もちろん、BTSとグラミーを17世紀の政略結婚と同一視したいわけではない。似ているのは、性質の違う二つの力が互いに相手の持つものを必要とする、その一点である。グラミーには、長い歴史と「受賞者」という名を残す象徴的権威がある。BTSには、グラミーが与えたのではない、世界規模の市場とファンダムと文化的影響力がある。私はこれまで、利害や組織文化の異なる二つの会社のあいだに入り、双方の意図を翻訳しながら落としどころを探すリエゾンとして働いてきた。その感覚からすると、この件が最も丸く収まる象徴的な瞬間は、BTSが「Dynamite」や「Butter」で既存のポップ部門を受賞することだったのではないかと思う。もちろん、グラミー賞は外交上の手打ちとして配られるものではない。CEOがBTSを勝たせたかったのに、年長の白人投票者に阻止された、と断定できる証拠もない。受賞は多数の投票会員によって決まり、CEO一人が選ぶものではない。それでも、賞による承認には政治的、象徴的な効果がある。既存の主要部門でBTSが受賞していれば、グラミーは新しい世界的勢力を自らの歴史に迎え、BTSは古い権威から正式な承認を得る。両者にとって、悪くない「結婚」になっていたはずだ。しかし、そのタイミングを逃した。 グラミーはBTSを「引っ張り上げた」のかBTSは何度もノミネートされ、グラミーの舞台で歌い、踊った。そのたびにARMYは、視聴やSNSでの拡散などで圧倒的な「火力」を見せた。しかし受賞には届かなかった。グラミー側にBTSやARMYを意図的に利用する計画があった、と私は言っているのではない。だが、BTSとARMYの側から見れば、受賞への期待を持たされ、何年も引っ張られ続けたように感じても不思議ではない。「話題と視聴者だけを求められたのではないか」と受け取ったファンもいた。 グラミーはBTSを壇上へ引っ張り上げたのではなく、受賞への期待で何年も引っ張った。その後になって、「では、あなたたちのための部屋をつくりましょう」と言われても、BTSにとっては昇格ではなく、分類し直されたように見える。アカデミーには善意があったのだろう。新部門は、これまで見過ごされてきたアジアの音楽に名前と席を与える試みでもある。しかし、善意はタイミングを帳消しにはしない。小さな親切が、ときに、それまで待たされた時間をかえって際立たせることもある。 Disneyとの船出に、BTSがいないということしかも2027年は、グラミーがABC、Hulu、Disney+を通じた10年間の世界展開を始める最初の年でもある。契約は2036年まで続き、グラミー関連の特別番組なども世界の視聴者に向けて制作される予定だ。この契約がBTSの参加を前提としていたという証拠はない。「アジアン・ポップ」部門がDisneyのためにつくられたという証拠もない。しかし、「世界へ開かれたグラミー」を示すべき船出の年に、最大級の越境型ファンダムを連れてくるBTSが不在であることが、何の痛手にもならないとは考えにくい。BTSが出れば、番組にとってプラスになる。これは陰謀論ではなく、世界配信を行う興行としての、ごく普通の計算である。BTS一組が欠席しただけで、グラミーが成り立たなくなるわけではない。現時点で、ほかの大物アーティストが一斉にBTSへ追随した事実もない。だが、アカデミーにとって本当に厄介なのは、一組の欠席そのものより、BTSの拒否が「気に入らない扱いを受けたなら、参加しない」という選択可能な前例になることではないか。 アカデミーが恐れているのは、BTSがグラミーを必要としないことよりも、ほかのアーティストまでそれに気づいてしまうことではないか。これはアカデミーの内心を知っているという話ではなく、制度が直面するリスクについての私の推測である。しかし、BTSの声明後、アカデミーが多くの関係者と協議し、「当事者の音楽を望む形で表現していない」と感じるアーティストがいることを認め、カテゴリーと新部門の導入過程を再検討し始めたのは事実だ。BTSが開けた出口から、ほかのアーティストまで歩き始めるかもしれない。その可能性を、古い権威は無視できない。 「じゃあ、そろそろ」では遅いここまで書いて、なぜか私は昔の『めちゃ×2イケてるッ!』を思い出した。ナインティナインの矢部浩之には、長年交際し、番組では「ひとみちゃん」と呼ばれていた恋人がいた。2007年の破局会見で矢部が公に語ったところによれば、彼は彼女にこう切り出したという。 「じゃあ、そろそろ結婚しようか」そして返ってきた答えは、 「遅いよ」長いあいだ待っていた相手にとって、「じゃあ、そろそろ」は、待ち望んだプロポーズには聞こえなかったのだろう。矢部自身も、その軽さをコンビニ弁当でも買うような調子だったと振り返り、相手の存在を当たり前だと思っていたことを認めた。今回の「アジアン・ポップ」部門にも、少し似たところがある。グラミー側には、善意だったのだろう。「じゃあ、そろそろ君たちのための部屋をつくろうか」しかしBTSの側から返ってきたのは、こういうことだったのかもしれない。「遅いよ」問題は、差し出された指輪が小さかったことだけではない。渡すのが遅すぎた。そして、その前に「じゃあ」がついていた。--- 参考資料 BTSの出品見送りとアカデミー側の反応(Associated Press)https://apnews.com/article/45a5f34cd84c966abb51e616a3bdf8e6 新部門の再検討と関係者協議(Music Business Worldwide)https://www.musicbusinessworldwide.com/after-bts-boycott-the-grammys-reconsiders-new-asian-pop-category/ グラミーとDisneyの10年間の世界配信契約(The Walt Disney Company)https://thewaltdisneycompany.com/news/disney-to-become-new-home-of-the-grammys-under-10-year-global-deal-with-the-recording-academy/ グラミー賞の投票プロセス(Recording Academy)https://www.recordingacademy.com/awards/voting-process 2025年に招待されたK-pop関係者(GRAMMY.com)https://www.grammy.com/news/recording-academy-new-member-class-2025-k-pop-artists-producers-songwriters/ 徳川和子の入内と「公武之和」(京都市上京区役所)https://www.city.kyoto.lg.jp/kamigyo/page/0000012455.html 矢部浩之が語った破局会見(ORICON NEWS)https://www.oricon.co.jp/news/45752/full/
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